カウントはいつまでも増え
目ざまし替わりにしている携帯電話のアラームで目が覚めた。 自分でセットしているのだから時間は分かっているのだが、何となく癖で画面を確認してしまう。 寮に居た時より三十分早い時間を見ていると、キッチンから炊飯終了のアラームが聞こえてきた。 よし、今日も働くか。まずはご飯。 わざわざ気合を入れたのは、今日という日が世間一般では祝日に当たるからだ。 勤務日だから凝った朝食は作れないが、両家の母親からもたされていた品を並べれば見栄えはするだろう。 汁物は豆腐があったはずだ。 母親に言わせるとまだまだらしいが、郁自身はそこそこ慣れたと思っている手順をなぞり、きんと冷えた空気に負けないうちに体を起こす。 「……ん」 遠慮のない郁の仕草で波打ったマットレスの隣から、目が覚めつつある気配が伝わった。 「篤さん、朝だよ」 昨夜遅くまで、特殊部隊メンバーに付き合わされ、というか、本人も内心喜んで同行してきた飲み会のせいか珍しく寝起きが悪そうだ。 今日も堂上班は勤務があるし、郁は未だに酒に強くない。何度目か幹事役も忘れているだろう忘年会は、途中で引き上げてきていた。 職務を忘れて深酒するような人ではないからと、さっさと先に寝ていたがよほど飲まされたらしい。犯人の目星は簡単につく。 「ねぇってば、朝だよー」 滅多にない逆転にどこかくすぐったさを覚えながら声をかけると、ようやく夫の目が開いた。 「ん」 今度のは分かったという事だろう。 「おは……」 完全に起きた様子に挨拶を口にしかけて、ふと思い出した。 そして言いなおす。 「明けましておめでとうございます。……四回目だね」 「……あぁ、そうか」 郁より起動時間の早い堂上には何のことか伝わったらしい。 せっかく起き上がっていたのに、腕を引かれてベッドに、正確には堂上の腕の中に戻される。 「おめでとうございます」 はじめて個人的に交わした年始の挨拶が再現される。 来年からもずっと言えたらいいと願った言葉は少しずつ数を増やし、恋人から夫婦になって更に途切れる心配はなくなった。 「早く十回、二十回ってなったらいいのに」 腕の中の温さにつられて、つい口にした郁の頭がくしゃくしゃと掻き混ぜられた。 「おまえは、思い出したようにかわいくなるな」 不意打ちだった。 そんなところまで再現しなくてもいいのに。 とは思うのだが、口元がにやけてしょうがない。 「これからもよろしく」 今年は、ではなくもっと先までの予約に、郁はあと五分だけと自分に許した。 |
あとがき
ちょっと成長した奥様な郁と
かなり甘えてる堂上教官
いつまでもいちゃいちゃしてればいいさ!
と思いながら書いた記憶