宣言受諾



 堂上の開き直りのおかげで寮内で場所の問題はなくなったものの、他の隊内カップルと暗黙の縄張り争いをしながらなのでキスの回数自体が増えることにはならなかった。
 その変わり───

「教官、待っ……」

 郁がキスの合間に囁くと、ほんの僅かに唇が離れ、そしてまた重ねられた。
 待ってって言ってるのに。声出ちゃいそうだから。誰かに見つかっちゃう。
 言葉を封じられている変わりに首に回していた手で堂上の肩を軽く叩くが、キスが終わる気配はない。
 どころか、今度はその手が邪魔だと言わんばかりに壁に押さえ込まれた。
 堂上が本気で掴んでいないのは力の強さで分かるが、キスで息があがっている上に体からどんどん力が抜けている郁には引き抜けない加減だ。
 言ってダメ、腕も封じられた、なら最後の手段……と考えたと同時に、腕を押さえているのとは反対の腕に頭を抱き込まれ、顔を引き剥がすのも未遂に終わる。
 声が我慢できなくなってきてるんだってば、こういうとこ誰かに見られたら大変だし。大変なのは教官もなのに、なのになんでこんな。
 
 激しい。

 最近キスのたびに脳裏に浮かぶのは、その一言だ。
 開き直って以降、堂上のキスは以前と比べ物にならないほど激しくなった。
 それまでのキスが子供騙しに思えるほど。
 激しくて苦しい、けど嫌な苦しさじゃない。
「んっ」
 こらえていたのにとうとう声が漏れ、誰かに聞かれてはいないかと強張ったのが伝わったのか、ふいにキスが止んだ。
「待っ……て」
 荒い息を吐きつつようやく告げる。
 恥ずかしさで俯いたままの郁には堂上の肩しか見えなかったが、堂上があのまっすぐな視線で自分を見つめているのは雰囲気で分かった。
 待ってくれている、とは思うものの訓練の時のように簡単には息を整えることができない。
 沈黙の中で唇を冷たい風が通り過ぎた。
 二月も後半とはいえまだ春は遠く、一番寒い季節を忘れるほどキスに没頭していたのを思い出させられて、治まりかけていた息がまた上擦る。
 無意識に身じろいだ郁の耳元に唇が寄せられ、あぁ教官も息が乱れてるんだと変なところに安堵したところで
「俺はもう十分待った」
 何かを含んだ返事が返ってきた。
 その何かは、きっと先日「うっかり」した宣言から繋がっている。
 ずっ、と背中が壁に擦れる感触がしたのを見越していたのか、抑えていた腕で抱きしめられ、たたらを踏んだ足の下で乾いた落ち葉がカサカサと鳴った。
 抱きしめる力が強くなったのは膝が崩れ落ちた自分を支えるためなのか、それとも……。
「嫌か?」
 短い言葉にたくさんのものが詰まってそうで、郁は肩にのせた頭を小さく横に振るのが精いっぱいだった。

あとがき

ひっさしぶりに創作するので、リハビリがてら短いのを書いたら
むっつり王子暴走気味
以上!!