赤むぎんちゃん
赤むぎんちゃんは、家事ばっちこーい性格どーんとこい、そしてちょっぴり天然な女の子。 今日は蒼い森に住むおばあさんのところへお出かけです。 「こんにちは、おばあさ……んんっ!?」 いつものようにドアを開けた赤むぎんちゃんは、驚きました。 そこには、なぜかおばあさんが四人もいたのです。 「お、お、おばあさん? なんで……」 驚く赤むぎんちゃんに、一人目のおばあさんが言いました。 「ふふっ♪ 赤むぎんちゃんが、とーってもかわいいから、ねぇマイケル?」 変わったロウソクにむかって微笑むおばあさんに、赤むぎんちゃんはどこからツッコめばいいのか面倒くさくなったので、二人目のおばあさんに訊きました。 「それになんで、そんなに大きなお耳がはえてるの?」 二人目のおばあさんは、ピクピクうごく大きなお耳の下で、瞳を妖艶に輝かせます。 「驚かせたかな? 東洋の古い話には分身の術というものがあるんだよ。歌舞伎にも化身といって……」 なんだか話が小難しくなりそうだったので、赤むぎんちゃんはお手製の料理が入ったカゴを置いて、三人目のおばあさんに目をむけました。 「なんで、そんなにお腹をすかせたお顔してるの? もうご飯にする? きょうはカレーだよ」 やけに大きな体をしているおばあさんは、お鼻をひくひく動かしながら顔を輝かせました。 「らっきー! んじゃ、さっそく……。いや、やっぱさ、おれはおまえが食い……」 最後の方はぼそぼそと小さな声になったので、赤むぎんちゃんには「いや」という言葉しか聞こえませんでした。 なので、じゃあお掃除でもしようかなと思ったとき、四人目のおばあさんの声がしました。 「掃除をするなら、そこにあるピンクの割烹着を使え」 みょうに態度のでかいおばあさんにムッとした赤むぎんちゃんは、この赤いずきんがあるからいらないと、あっさり断りました。 「そうか。なら掃除はいい。おまえも疲れただろう、少し昼寝をしたらどうだ。ん?」 とたんに四人のおばあさんの目が、ぎらぎらしはじめます。 「だったら、こっちにおいでよ♪ 眠るまでこもりうたを歌って、あ・げ・る」 「冗談だろう? ここにおいで、おひめさま。やさしく抱いていてあげよう」 「はぁっ!? っざけんな、おまえらのとこで眠ったらなにされっか……。だから、ここなら、さ」 「馬鹿をいうな。赤むぎんが眠るなら、ここ、と決まっているだろう」 「決まっている? おかしなことを言うね」 「うわ、横暴〜。こっわーい」 「じゃあ、もう飯でいいじゃん。カレーにしようぜ」 「少しだまってろよ、カレー馬鹿マニアック系」 「んだとっ!? カレーを馬鹿にすんな」 「ふたりとも……」 「うるさいっ」 赤むぎんちゃんそっちのけで言い争う四人のおばあさん。 ぎらぎらしたおばあさん達は、まるで悪いオオカミのようです。 天然でにぶい赤むぎんちゃんも、やっと身の危険を感じはじめました。 悪いオオカミさんなら、やっつけなきゃいけません。 「そうだ! なかいずみさん……あれ、ちゅうせんさん? ま、どっちでもいいや、たのんでみよーっと」 いいことを思いついた赤むぎんちゃんは、まだ言い争いを続けている四人をほったらかして、お家をあとにしました。 なかいずみさんは、森の猟師です。 赤むぎんちゃんは、おばあさんを助けるため、手を貸して欲しいとたのみました。 「よし、このなかいずみの力、みせつけてくれよう」 こころよく引き受けてくれた、なかいずみさん。 赤むぎんちゃんは武器をもったなかいずみさんと、悪いオオカミさんのもとへ戻りました。 お家の中からは、まだ言い争う声がしています。 「いっつも、そう。ほんっと俺様だよねー」 「きみ……なにか勘違いしてないかい」 「おまえらな、そこまでいうことあんのか?」 「ふぅん、味方するんだ。じゃあ、赤むぎんちゃんから手をひくんだね」 「それとこれとは別だろっ!?」 「子供の理論だね。オモチャを前に駄々を捏ねているみたいだ」 「そういうあんたも、随分とつっかかるじゃないか。俺に文句があるなら、直接言えばいいだろう?」 四人のおばあさんの仲は、もはや昼めろもびっくりの泥沼っぷりでした。 となりでは、外からそっと様子をうかがっていた、なかいずみさんの顔色がみるみる蒼くなっていきます。 「赤むぎん、あれはラ・プリンスという蒼い森に住む悪いオオカミ達だ」 なかいずみさんの手にある武器がカタカタと鳴りだします。 「右から、いちみや。まつかわ。はねくら。そして……みぃぃぃどぉぉぉおおおおおお!」 おおきな声にびっくりした赤むぎんちゃんが、おもわず目をつむると、ばーーーんとドアをあける音がしました。 「きょうこそ、刀の錆びにしてくれるわぁぁぁぁ」 いきおいよくドアをあけたなかいずみさんが、悪いオオカミさんにむけて武器をかまえます。 そのお顔は、悪いオオカミさんたちよりもおそろしいものでした。 オオカミさんたちは、言い争いをやめてなかいずみさんをじっと見つめています。 おそろしくて動くこともできないのでしょうか? 「にげて!」 なんだかこのままじゃ大変なことになりそう、あたしがなかいずみさんを連れてきちゃったからだ……そう思った赤むぎんちゃんがとっさに叫んだのに、オオカミさんたちは余裕しゃくしゃくのお顔になりました。 「なかいずみか。毎回ご苦労なことだ」 「みどうをやっつけようなんて、無駄な努力だよな」 「へぇ、気が合うね、はねくら。ぼくも同感♪」 「ふたりとも。おもしろがってないで、追い返す方法をかんがえたらどうだい?」 「まつかわさん、それなら俺にいい案がある」 みどうと呼ばれたオオカミさんが、なにやら笑顔になりました。 「どうだ、なかいずみ。このへんで和解といこう」 とつぜんの申し出に、なかいずみさんの体がかたまります。 「俺たちも、もう落ち着こうと思う。これからは悪さをしないと誓おう。だからもう俺たちを追う必要はないぜ」 ふんぞりかえって和解を申し出るみどうさん。 どちらが優位か、赤むぎんちゃんにもわかります。 なので、ドアのかげからそっとなりゆきを見守ることにしました。 「和解……だと?」 「そうだ」 疑わしげななかいずみさんに対して、みどうさんはキッパリと頷きました。 「そんなはなし、信じられるか! おまえたちはその容姿と生まれを利用して、多くの女性を……っ!」 けれど、なかいずみさんの揺れ動く気持ちをあらわすよう、日本刀はふるふると揺れています。 おばあさんに化けたオオカミさんたちの、今までの悪さを悟った赤むぎんちゃんは、少しあきれました。 「突然の提案に驚くのも無理はない。なにか飲んで落ち着こうか」 みどうさんが目くばせすると、いつのまにか移動していたいちみやさんが、カゴからポットを取り出します。 赤むぎんちゃんが持ってきた、特製ランチ入りのカゴです。 もう一つのポットを、笑顔でなかいずみさんに渡すいちみやさん。 あれ? あたしがお茶を入れたポットは一つだけのはず……と赤むぎんちゃんが首をかしげるのと同時に、うめき声が聞こえました。 「そ、そっちは……ぐっ」 みると、はねくらさんが横腹を押さえている隣で、まつかわさんがニッコリとしています。 「まつかわさん……あんた、あんがい……つ、よ……」 「空気よめよなー、はねくら」 「そう、状況を考えるんだね。おれが止めていなかったら、どうなっていたことやら」 なにかうらがありそうな会話に、赤むぎんちゃんはいやな予感がしはじめました。 なかいずみさんも、警戒してポットとオオカミさんのあいだをきょろきょろしています。 「あぁ、あれは気にしなくていい。それより乾杯だ。なんだ信用できないか?」 ならば、と。 みどうさんは手にしたポットを一気に飲み干し、挑発するようふふんと眉をあげました。 なかいずみさんは、ポットをじっと見つめています。 「どうした? ふっ、まさか恐れて飲めないなんてことないよな。森一番の猟師が」 「このわたしを愚弄するか! よかろう……見よ!!」 日本刀を床に置き、ポットの蓋を開けるやいなやぐっと傾ける、なかいずみさん。 その瞬間、赤むぎんちゃんは、なかいずみさんの手にあるポットに何をいれたのか、思い出しました。 はねくらさんが苦悶のひょうじょうを浮かべながら、なにかを取り戻そうとするかのように手を伸ばしています。 いちみやさんは天使のようなお声で鼻歌を歌い、とってもたのしそうです。 まつかわさんはやれやれと苦笑いをしています。 みどうさんは、ずっと俺のターンというお顔で余裕のポーズです。 そして。 すべて飲み干したなかいずみさんは、みるみるお顔を赤くしました。 赤ずきんちゃんのずきんよりも真っ赤です。 「み、みずーーーーーー!!」 おおきな叫び声をあげながら、川へ向かって飛び出したなかいずみさんを、赤むぎんちゃんはぼうぜんと見送ることしかできませんでした。 それもそのはず。 なかいずみさんが飲んだポットには、お昼ごはんのカレー、それも特製レッドカレーが入っていたのです。 作った赤むぎんちゃんは、どれほど辛いのか想像できました。 「あーあ、あんなに喜んじゃって。よっぽど気に入ったんだね♪」 「ふふ、お姫さまの料理だから、当然だね」 「赤むぎんがカレーを作ってきたのはタイミングがよかったな。まぁ、俺の機転あればこそだが」 やっぱりオオカミさんたちは、とても一筋縄ではいかない性格のようです。 頼りにしていたなかいずみさんは、オオカミさんたちにあっさり返り討ちにされてしまいました。 なら、自分でなんとかするしかありません。 「あ、あんたたちーーーー!」 「おれのカレーーー!」 せっかく作ったカレーを台無しにされた赤むぎんちゃんが、ふるふると震えながら怒鳴りつける声と、ようやく声を出せるようになったはねくらさんの虚しい叫びが蒼い森中に響き渡りました。 「あんがい、かんたんに追い払えたな」 「だってー、猟師なのに武器が日本刀って、なかいずみったらおっかしー♪」 「まぁ、これで平和になるんじゃないかな」 「……カレー」 「あの執念深さを本業にいかせばよかったんだ。あまいぜ」 「逆恨み、ってやつだよね♪」 赤むぎんちゃんが、あぜんぼーぜんとしているのに。 オオカミさんたちは好き勝手に話しています。 赤むぎんちゃんがくちをはさむ隙もありません。 「ともかく、これでなかいずみも大人しくなるだろう。そもそも、つけねらわれる理由がなくなるからな」 「そうそ♪ ぼくたち、わるいオオカミさんじゃないもんね」 「今まで、そう認識されていたのは不本意だったからね」 「そりゃおまえたちが派手に女と遊んでっからだろうが! おれはとばっちりだ」 「うるさい、はねくら」 「まぁまぁ」 「さて。せっかくの昼飯が無くなってしまったな」 「赤むぎんちゃん、なにかつくってー。おいしくて、すぐ出来るやつ♪」 「こらこら、あまりワガママを言っちゃだめだよ」 「そうだ……カレー……おれのカレー」 これで一件落着という雰囲気に、赤むぎんちゃんは納得がいきません。 「あのね! 説明してくれる?!」 4人のオオカミさんは、やっと赤むぎんちゃんが怒っていると気がついたようです。 「まず、カレーを台無しにしちゃってゴメンナサイでしょ!? そもそも、あれはおばあさんのために作ったのに! おばあさんはどこっ!?」 「あぁ、それならこれを預かっている」 みどうさんが一枚の紙をさしだしました。 そこにはおばあさんの字で 『みどうくんにお願いされたから、赤むぎんちゃんの事まかせるのね。 ラ・プリンスなら大丈夫、ほっほっほ』 と、書いてありました。 「お、おばあさん……そんなアッサリ」 「これで理解できたか? おばあさんにはしかるべき住居を用意して、すでに移ってもらっている。おまえはきょうからここで俺達と同居してもらう」 ころころ変わる状況に、赤むぎんちゃんの頭のなかはハテナのマークでいっぱいです。 けれど、おばあさんがいない今、この4人といっしょに暮らすしかない、というのは分かりました。 「でも、なんであたし?」 「んー、だって男4人の生活って潤いがないんだもん」 「約一名を除いて、女たらしの扱いをされていたからね。そのせいでなかいずみに追いかけられるのも飽きたし、おちつこうと思って」 「おれはうまいカレーが食えりゃいいや」 「家政婦をさがしているところに、おまえのうわさを聞いた」 「こーんなにカワイイ家政婦さんなら、ぼくたちもうれしいし」 どうやらお料理や家事の腕を見込まれた、ということも分かりました。 それとね、と4にんが微笑みます。 「おまえを食べるためだぜ」 にね」 だよ」 なんだ♪」 天然でにぶい赤むぎんちゃん。 おまえを食べるというのは、おまえの料理をという意味だろうと思いました。 過去をふりかえって、くよくよしないのが赤むぎんちゃんです。 こうして。 赤むぎんちゃんと4人のオオカミさんたちは、いつまでもなかよく暮らしましたとさ。 |
おしまい。
あとがき
童話だから平仮名多目にしたら、読み辛いのなんのって。
けも耳のラ・プリンスにこっそりハァハァしていたのは内緒。
ラ・プリ狼なら全身毛ダルマでもイイ。