この話は、猫百匹のリアル友人ムギムギと
「シンケ○ジャーの殿ってさ、御堂様っぽくない!?」
「なにおぅ、それより千明が麻生っぽい!グリーンだよ、いいんだよ!」
という、オタトークの流れで出来ました。
なので、話の中に

 ・シン○ンジャーネタ

が、ガンガン出てきます。

パロディやパラレルが苦手な方は、このままお戻りくださいませ。
オッケーどんと来い!の方のみ、下にスクロールして進んでくださいませねー。

















ヒーローの受難


 祥慶の校門を出た瞬間、ざぁっと一陣の風が吹いた。
 つい最近まで含んでいた蒸し暑さはなりを潜め、その風は冷気をまといだしていて頬に心地いい。
「ずいぶんと涼しくなりましたわねぇ」
 同じく風を感じたらしい女生徒が傍らの生徒に語りかけるのを背で聞いて、俺は歩き慣れた道をぶらぶらと進みながら“冬まであとどのくらいバイクに乗れるか。景色もいいこの季節に何ヵ所回れるか”そんなことをぼんやりと考えだした。
 やっぱ秋は山が最高だ。
 山全体が燃えたよう紅葉で染まる景色は、何度見ても息を呑む。
 特に去年見つけた穴場は足場がせり出しているせいか、赤い雲に浮かんでいるとさえ錯覚しそうな絶景だった。
 ……あいつにも見せてやりてぇな。
 ふと頭をよぎった顔に鼓動が大きく跳ねる。
 最近はいつもこうだ。
 あいつを思うと心臓や頬の熱さをコントロールできなくなる。
 今までに馴染みのないその感覚は、戸惑いと、なぜか少しの苛立ちをつれてきて落ち着かない。
 だから最近は祥慶から徒歩数分の御堂家まで、やたらぶらぶらと、ともすれば歩くのを脚が勝手に止めそうになるほどのスピードで帰るのが日課になっていた。
 今日もそうだ、でもこの角を曲がれば……。
「うわっ」
 その途端、体に風と衝撃を受けて訳がわからないまま、とっさに体を捻った。
 浮きかけた脚が地面を捉え、ぐらりと揺らいだ景色が形を取り戻す。
「なっ……んだよ」
 状況に追いつかない頭で思わずこぼした声に「いてて」という声が重なって、辺りをきょろきょろと見渡しても声の主どころか、高級住宅街には野良猫一匹さえ姿はない。
「……気のせいか、はは」
 まさかこんな昼間っから幽霊でもないだろうと、空笑いで勘違いを流そうとしたら。
「いたたぁ……あっああっ!」
 こんどは間違いなく声と、そしてぐいっと体をもっていかれて自然と視線が下に誘われた。
 視線を向けた先では、地面に尻をついて口を開けっぱなしにした男が、やたらと膝まわりに余裕がある俺の制服をしっかりと掴んでいる。
 さっきの衝撃とこの状況から、こいつにぶつかっちまったのを瞬時に悟って手を差し出した。
「悪い、立てるか?」
 年の頃は俺より三つ四つ上くらい、そんな男が立ち上がれないというなら何処か怪我でもしたのかもしれない。
 だから手を差し出してとりあえず引き上げようとしたのに、そいつは手を無視してそろそろと膝から腿へ、追いつかない理解に戸惑う俺が固まっているのをいいことに、ついには腹にまで手を這わせはじめた。
「っ! ……なにしてんだてめぇ」
 ベルトが鳴った音で我にかえり、ギョッとして慌てて振りほどく。
 世の中にはそういう趣味のやつもいる。
 俺の女嫌いをそういって一宮の野郎がからかったことがあるから知識としてあったものの、実際に自分が体験するなんて思いもよらず、声は嫌悪と怖気を多分に含んでいたのに、相手は目を虚ろに開いたままほどかれた自分の手にぶつぶつと語りかけている。
「……筋肉……バランス……理想的」
 小さくとも耳に入った単語に、これは絶対にヤバいと背中を汗が伝って、気がつかれないうちにジリジリと後退る。
 そのままダッシュして、路地を滅茶苦茶に進めば俺の脚だ、そう簡単に追いつかれないはず。
「あ、待って!」
 なのに、それまでのぼんやりした様子はどこへやら、ひしっと脚にしがみつかれて疑惑は確信に一瞬でチェンジした。
「離せっ」
「お願いします」
「やめろ、てめっ」
「助けてください!」
「離せー!」
 逃げようにも片足に全体量でしがみつかれていては、数歩後退するので精一杯だ。
 くそ、こうなったら蹴りつけてでも逃げてやる!
 ふっと脚から力を抜いて、相手がわずかにほっとした顔になった隙を狙って全力をこめ……ようとした背後から。
「なにをしているんだ羽倉」
「御堂!?」
 呆れまじりの声に意識をとられ、せっかくのチャンスは霧散した。
「なんかヤバいんだよ、こいつ」
「羽倉の家でも護身術くらい習っただろう」
「だから…っ!」
 その機会を奪ったのは、てめぇだって! と怒鳴るかわりにすっとんきょうな悲鳴が地面からあがった。
「ああっ! あなたも! 完璧だっ、まさに殿だ!」
「……殿?」
「はぁ?」
 俺と御堂があっけにとられ立ち尽くす間、いまだしがみ続けるやつの中で目だけがランランと輝いていた。


◇◇


「で、俺たちに代役を頼みたい、というわけか」
「はいっ! お願いしますっ」
 そういうと、向いに座った男──大学で演劇サークルを主宰している「漢字でホクロと書いて、そのままクロコって読みます」というやつは臆面も無くガバッと頭をさげた。
 学生だろうが仮にも演技経験があるからか、よく通る声につられて一斉に注がれた店内の視線から逃げるよう御堂を伺うと、御堂も俺を見ていて、いま終わった話の内容に同じタイミングで深いため息と鼻で笑う音が重なった。

 あのあと。
 話を聞いてくれるまでは離さない!と涙さえ浮かべはじめるやつ、と。
 公道でこれ以上騒ぎにしたくない御堂。
 とにかく脚から離れて欲しい俺、の意見が合致したのは場所を変えるの一点で。
 すぐ近くだけど車を呼んで(――これはきっと御堂のことだ、運転手や秘書に居場所を明らかにして万が一の危険がないようにって考えだろう)よく利用する喫茶店の隅で話をするはめになった。
 脚から手が離れた瞬間に逃げ出したかったものの、御堂の「おまえのせいで面倒に巻き込まれたんだ。責任を取れ、馬鹿」というセリフに射竦められ、俺もしぶしぶ全ての話を聞いた。

 そしていま出るのはため息だけだ。

 目の前でテーブルに額がめり込みそうなほど頭をさげている黒子の話はこう……。

 今日、サークルメンバー有志で向かうはずだったのは祥慶からほど近い児童施設。
 そこでヒーローショーを披露するはずが、車で向かっていたヒーロー役二名から事故にあったと、先に施設で準備していたこいつに連絡が入った。
 幸いにも両名打撲や捻挫ですんだが、激しいアクションをするのは到底無理で。
 焦って変わりのメンバーを探そうにも、急な話で代役が捕まらないうえにお手製のヒーロースーツは予定していた演者に合わせて作った一着ずつしかない。
 途方にくれて替わりに何か使えそうなものがないか、急いで部室に戻ろうとしていたところに、俺と御堂に文字通り鉢合わせしたという。
 俺は体型がピッタリで、御堂はその不遜な態度がメインの……たしかシンケンレッド? とかいうのとそっくりだとか。
 楽しみにしている子供たちのためにも、無念の降板になったやつらのためにも、力を貸してほしいと一気にまくしたてられた話を反芻して、もう一度ため息をついた。
 隣からシンクロしたため息のあとで御堂が携帯を出しながら、いつの間に持ち直したのか普段どおり冷静な声音で諭すよう黒子に話しかける。
「どうにかと言われても、俺たちには無理だぜ。聞けば本格的なアクションがウリなんだろう? 練習どころか打ち合わせもロクにできていない状態で素人が入っても、結果は目に見えてる」
 言いながら誰に電話をかけようとしているのか、御堂の素性と性格を知っている俺は検討がついた。
 御堂グループの力を使えば、今からでもプロを手配するくらい造作もない、大方秘書にその筋のつてがないか依頼するんだろう。
 御堂んとこにまかせればまず安心だ。
 ……良かった、これで開放される。
 安堵しかけたのに、黒子は急に意気込んで御堂の声を遮った。
「アクションはギリギリまで削って、無事なメンバーを話の中心に変更しますっ。それなら今からでも十分可能ですし!」
 その押しの強さと適応力の何割かを、危機管理とトラブル対策にまわしておけば……こんな無理難題を初対面の人間にゴリ押しする必要もなかっただろうぜ。
 横目で御堂を見れば、組んだ腕の先で指が忙しなくとんとんと携帯電話を叩き、顔はわずかに眉が潜められていて、そんな御堂の心のうちがありありと浮かんでいる。
 御堂は外でめったにポーカーフェイスを崩さない、これでも最大級の不満顔だ。
 だから俺自身の困惑に上乗せて、すがる目付きの黒子に声を荒げた。
「そりゃダチが怪我したのは可哀想だけどよ、てめぇらが代役も決めねぇ杜撰な計画で突っ走るからだろ。児童施設、だっけ? 子供らには延期の連絡して、役者の怪我が治ったらまた日を改めるとかじゃダメなのか」
「子供たちは今日をすごく楽しみにしてたんです!」
「話を削れるなら、できるやつだけでやるとか」
「ヒーローショーにヒーローがいなかったら、意味がないんですよ! 出番を削ってでも舞台にレッドがいるだけで違うんです。もう一人のグリーンだって大事な役割があって」
「あんただって御堂と体格、大差ねぇじゃん。あんたがそのなんとかレッド?」
「シンケンレッド、ですっ。志葉家の当主で殿さまで」
「わかったから人の話を聞けって。あんたが代役をやればいいじゃん。シナリオもわかってんだし、アクションだって練習一緒にしてきたなら見て覚えてる部分あんだろ」
「僕は舞台が好きだけど、残念なことに運動はさっぱりなんだ。この名前の通り裏方に徹して、今日だって進行や音響を指示する役割があるから、無理で」
「にしてもさ」
 こんだけ切羽詰ってる状況なんだから、その熱意でなんとかしろよ……。
 いくら策を出しても一向に引かない黒子にうんざりしかけて御堂に助けを求めるものの、おかしなことに御堂は窓の外を眺めていた。
 どうやら我関せずを貫く気らしい。
 確かに面倒に巻き込んだのは俺だけど、俺だって巻き込まれた被害者だ。
 その俺がここまでやってんのに、ったく。
 その間に黙った今が説得のチャンスと読んだのか、黒子は勢い込んで身を乗り出した。
「僕とぶつかってもすぐに態勢を整えた羽倉くんの運動神経、それと筋肉。バランスがよくてアクター向きだ、すばらしいよ!」
 あん時ベタベタと脚を触って確認していたのはそのことか。
「んなこと褒められても嬉しかねぇよ」
 感触を思い出して、粟立った肌をさすりながら吐き捨てるように言っても、熱く賞賛する眼差しは変わらない。
 自分のしていることに対する熱意がそのまま顕れている目で、黒子は御堂に視線を移すと次に御堂を褒めにかかった。
「君も、カリスマ性というのかな。人の上に立つ器量を持っている。なかなかいないよ、殿役にこんなにピッタリハマる人なんて」
「それはどうも」
 窓から戻した顔は複雑で、声もぞんざいに御堂が返す。
 御堂の気持ちはよく判る。
 ……褒められても嬉しくねぇ。
「二人とも本当にピッタリなんだよ。時間があれば顔出しのシナリオに変えたいくらいだ。装置も時間も限られてるから、まさか子供たちの前で変身するわけにいかないし、はじめから変身してある設定なんだ。残念だなぁ。あ、でもスーツだって普通の人間が着るとやっぱり違和感があるんだ。ちょっとした仕草に出るっていうか。その点、君たちは普段あまり着ない服も慣れていそうだし。さっきから気になっていたんだけど、その服……」
「っ!」
 御堂がすっと鋭く息を吸う。
 触れて欲しくない部分は俺も同じで、いい加減イライラしはじめた俺はドンとテーブルを叩いて黒子の口を遮った。
「勝手なことばっか言ってんなよ」
「羽倉」
「あんた自分がどんだけ無茶言ってんのかわかってんのか? 自分が逆の立場ならどう思うんだよ。たまたまぶつかった相手に無理難題ふっかけて、アタリ屋まがいのことしやがって」
「羽倉!」
「んだよ御堂、さっきから」
 かばうとか気持ちを代弁するとか、んなつもりはさらさらなかったが話の腰を折られて自然荒い声で返事をすれば、憮然としているような、なにかを悟ったような顔で顎をしゃくられた。
 見れば店内中の視線がここに集まっている。
 呆然とした顔、興味津々の顔、眉をひそめている顔……その中に、よく知っている顔を見つけて……思考が停止した。
「麻生くん? ……一哉くんも、一体どうしたの」
「鈴……原? なんで、おま、ここに」
「お茶して帰ろうかと思って」
 ここは喫茶店なのだから、当然の答えなのに何でこのタイミングでなんだと頭を抱えたくなる。
「それより二人はどうしたの? えっと、そちらは」
 まずい。
 なんかすげーヤバい予感がする。
「あっ、あのお知り合いですか? ぼく黒子って言います。あのですね」
 こいつには聞かせちゃいけねぇ気がする!
「鈴原。喫茶店ならあとで連れてきてやるから、自分の仕事に戻ったらどうだ、うん?」
「あたしには自由にお茶する権利もないっていうわけ? それより、こちらの人が話し出してるのにマナー違反だよ、一哉くん」
「……」
 さすがの御堂もマナー違反という言葉に絶句して、固まった。
 かといって、このまま黒子の話をこいつに聞かれたら、本当にマズい予感が……。
「そ、そうだ! 俺おまえに頼みてぇことが」
「麻生くんも黙って」
「……」
 御堂グループの後継者すら一喝で黙らせた鈴原に、俺も撃沈して固まる。
「……でかい声だすからだ馬鹿」
「俺のせいかよっ」
「あいつが入ってきたのがわからなかったのか。逃げ出すのがお得意だったおまえが、人の説得までできるようになったのは褒めてやるが、状況判断が甘いんだよ」
「うるせぇよ、今はそれどころじゃねぇだろ。つくづく嫌味なやつだな」
 ひたひたと押し寄せる嫌な予感に小声でやりあっていると、軽い悲鳴があがった。
「……大変! せっかく頑張ってきて、子供たちも楽しみにしているのに!」
 あぁ……。
 ここが喫茶店の中じゃなければ、崩れ落ちたかった。
「一哉くん、麻生くん」
「……」
「……」
「手伝ってあげられないかな?」
「お願いします! あと一時間しかないんです。今からじゃもう代役も間に合わないし、でも僕は子供たちを裏切りたくないっ」
「あたしからもお願い!」
 すがる目が倍になる。
 いや、鈴原一人でも必死に訴える目には太刀打ちできないのが俺も御堂も判っているから、倍どころじゃない。
「……羽倉」
 ただ苗字を呼ばれただけで、御堂がどんだけむかついているのか伝わってきた。
「おまえは本当に厄介を招き寄せてくれるぜ」
「うっ」
「一哉くんっ、麻生くんっ!」
「仕方がないだろう数時間の辛抱だ。ここで断れば鬼畜扱いだぜ」
「わ、わかったよ! くそっ」
 黒子のためじゃない、鈴原のためだと自分に言い聞かせ、半ばやけになりながらヒーロー役を承諾した途端、時間が巻き戻ればどんんなにいいかと祈った。


◇◇


 そうして。
 涙を流して感謝する黒子に連れられ施設に向かった俺たちは、慌ただしい打ち合わせもそこそこにヒーローのスーツを着せられ、大歓声の渦に放りこまれた。
「とどめだ」
「お、おぅ。わかってるって、い、いくぜ」
 熱気が包む舞台とは裏腹に、心の中は虚しさでいっぱいだ。
 なんで好きな女の前で、こんな恥ずかしい目にあわなきゃいけねぇんだよ。
「頑張れー!」
 会場の隅で子供たちと一緒に声援を送る鈴原の笑顔に、なんとも言えない気持ちになる。
 思わずついたため息に、赤いスーツ……御堂からも同じため息がきこえてきた気がした。

あとがき

……お許しを
友人がフルキス+シンケンネタで描いた絵を写メしてくれたら
文字描きのあたしも、なんか脳に降臨して止まりませんでした
5〜6回?分割して、こういう話をメールで送りつけ
「続きは夜ねダーリン」とか
しても受け入れてくれる友人に乾杯!