理解の扉
こんなに暇を持て余すクリスマスは久しぶりだ。 去年の俺は、今はもう足を洗った世界でイベントだ何だと、結構忙しく遊び歩いていた。 何日も家に戻らねぇで、誘われるがまま渡り歩いて、気がつけば知らねぇヤツの家で目が覚めた……なんつう事もザラだったし? それはそれでスリルがあって楽しかった。 けど、あの世界に戻りたいなんて未練はねぇ。 一度抜け出してみれば、あれほど退屈な世界はなかった。 何に対するのか解らない不満を燻らせながら、その日だけ楽しく付き合って、後には何も残らない。 もうまっぴらごめんだ。 もっと、面白いもん見つけちまったからな。 「ったく、おっせーな。何やってんだよ、あいつ」 鳴らないケータイを何度も開いては閉じ、暇の原因のあいつから連絡がないことにイラつく気持ちを押しとどめた。 御堂ん家の大掃除を頼まれたとか、わけわかんねぇ。 何で元教師のあいつが、一生徒ん家の掃除をやる羽目になんのか、全然わかんねぇ。 わからねぇ事だらけなんだよ、鈴原むぎっつう女は。 祥慶の女とも違う、遊び仲間にもいなかった、平凡な女かと思えば普通じゃねぇ。 お世辞にも褒められた過去を持ってない俺と、クリスマスを過ごしたいなんて真顔で言うんだから、並みの神経してねぇのは確かだ。 そんくらい刺激がなきゃ、つまんねぇけどな。 クリスマスに予定はあるかっつうから、なにお前まさかオレ誘ってんの?って茶化したのに、それ以外に何の理由があるんだって顔して頷きやがって。 祥慶でたまに顔合わせるたびに、あぁだこうだ突っかかってくるやつが、真顔で頷いてみろ。 誰だって、さすがの俺でも驚くだろ。 休みの日まで説教してぇのか、それともなんか企んでんのか、思いつく限りの口実を捲くし立てても一緒に過ごしたいと思っただけ、って。 だからその理由を言えって返せば、今にも泣きそうな顔しやがるし。 馬鹿みてぇに大口開けて笑ってるとことか、目吊り上げて怒鳴りつけてくる顔とか、教師のくせに生徒に突っ込まれて焦ってるとことかは散々見たけど、そういう顔と全然違う……普通の女みてぇな顔で俺を見んな。 わけわかんねぇ、どこにも当てはまらない気持ちに襲われて、なんか腹立つんだよ。 いつもみてぇに噛み付いてみろって、とにかく煽りたくなんだよ。 だから馬鹿じゃね? って言ってやったのに、首を傾げて悩むもんだから調子が狂っちまった。 「いつもあたしの事バカって言ってるのに、九条くんわかってなかったの? てっきり知ってて言ってるものだと」 「は? おまえ、今のはそういう問題じゃ」 「バカだと思ってないのに、顔を合わせればバカバカって。おかしいよね……九条くんこそ馬鹿じゃないの?」 「ムカつく。なんでおまえに馬鹿って言われなくちゃなんねぇんだよ、仮にも元教師が生徒に馬鹿なんて言っていーわけ?」 「元教師、あぁそう。じゃあね今の話、忘れて」 「あ、おいっ。てめ……言いっぱなしで逃げられると思うなよ?」 ……調子が狂った。 だから、あっさり去ろうとするあいつを思わず呼び止めちまった、だけだ。 思惑通り、煽った分だけあいつが面白いように反応するから、売り言葉に買い言葉で。 気がつけばクリスマスに会うことになってた。 ほんと、わけわかんねぇ女。 だから飽きねぇんだけど、まんまと手の平の上で転がされてるみてぇな気がすんのは、俺の気のせいか? ……だとしたら、一泡吹かせてやらねーとな。 タイミングいい着信に、思わず口の端があがった。 「遅ぇよ。てめぇから誘っといて、待たせるとはいい度胸じゃねぇか」 「ゴメッ……急にかず、御堂くんから、頼まれて……」 よほど急いで駆けてきたのか、一言一声途切れるたびに白い息がふわふわと立ちのぼる。 顔が赤くなってんのは、寒さよりも走って体温上がったからか。 っとに、おもしれー女。 「急いで、終わらせたんだけど、待たせてゴメンね」 だから、なーんでおまえが御堂ん家の掃除をする羽目になったのか、って。 今ここで問い詰めてぇ気もするけど、こいつの事だ。 言いたきゃてめぇから話すだろうし、言いたくねぇって場合はなんか事情があんだろ。 ま、自分から言い出す気になるまで、じわじわと追い詰めてくのも面白いんじゃねぇ? 「寒かったでしょ? どこか喫茶店とかで待ち合わせても良かったんだけど、ここが一番近かったから」 「あぁ寒いぜ。冬に公園に呼び出すか? フツー」 「電話で近くにいるって聞いたから、ここならすぐに会えるかと思って」 「誰かさんがよぉ、ツラ貸せっつうからわざわざ予定開けてやったのに、あまりにも遅ぇからどっか遊びに行く途中だったんだよ」 「そ……んな……」 「バーカ。んな口開いてっと、間抜けな顔がますます間抜けに見えるぜ」 「なっ!」 ハッとして、慌てて口を閉じるとキッと睨みつけられた。 こいつは、こうじゃなくちゃな。 張り合いがねぇとつまんねぇ。 「間抜けって何よ、間抜けって! そこまで言われる筋合いないわよっ」 「はいはい。それよか、俺マジで寒ぃんだけど」 「あ、そうだった」 言われてから気付くあたりが間抜けだってのに、鈴原はいま気がついたという顔で二度三度腕をさすると、立ちのぼり続けている白い息を追って空を仰いだ。 寒さしのぎに買った缶コーヒーから昇る湯気と、二人分の息が空に吸い込まれていく。 「ふふ。こうして見ると、雲を作ってるみたいで面白いね」 「呑気なこと言ってんなよ? おまえと違って、野郎は脂肪ねぇ分よけー寒ぃんだからな。んなこともわかんねぇのかよ」 「ちょっと、それってあたしが太ってるって言いたいわけ? あたしだって寒いものは寒いんだから」 走ってきた反動なのか、自覚したせいなのか、腕をさする動きを早めながらも口だけは威勢がいい。 かわいげのねぇ女だよな、ほんと。 こいつにも女らしいとこあんのかよ? なら……一泡吹かせるか。 ふと、思いついた悪戯で笑い出しそうになるのを堪えて、手の中で弄んでいた缶をちらりと見た。 「九条くんさ、もう少し人の気持ちを考えて言葉選んだ方がいいわよ? そんなんじゃ敵ばっかり作って……って聞いてる!?」 「あぁ、聞いてるぜ? 寒いんだろ? だったらコレやるよ」 「え?」 「さっき買ったばかりだから、まだあったけぇぜ」 一瞬、戸惑いを浮かべた顔が、手に缶を押し付けた途端ふわっと緩む。 「嬉しいっ。ほんとに貰っちゃっていいの?」 「あぁ」 「実は休む間もなかったし、ここまで走ってきたから喉かわいちゃってたんだ。えへへ、いっただっきまーす」 だから、馬鹿だってんだよ。 おまえは、もう少し人を疑うってこと覚えた方がいいぜ? 「それ、俺の飲みかけだけどな」 口をつけたのを確認してから囁くと、言葉にならない悲鳴が喉で鳴り、寒さでも走ったせいでも理由がつかねぇほど顔が赤くなった。 ……それを。 少しでも、マジで気のせいかってくらい少しでも、かわいいじゃねぇか……なんて思っちまったのは、こいつに狂わされた調子のせいだとしときたかった。 |
あとがき
HEY!You!素直になりなよ、の巻
あーもー、りっくんったら……鈍いな!
むぎに太刀打ちしようとするなんて……甘いな!
むぎは最強だからねっ
学園の王子様4人が骨抜きなんだよ?
りっくんだって、手の上でコロンコロンに転がされる運命なのさ