その道の先には?


 祥慶はぬるま湯だ。
 生暖かくてうっとうしい。
 どこを向いても上辺面だけお上品なヤツらが溢れてる。
 そんなもんじゃねぇだろ?
 もっとドロドロしたもん見せろよ。
 そしたら“ほらな、おまえらだってタダの人間じゃねぇか”って笑ってやる。
 家柄とか血筋とか、しがみついていても結局はサルから進化した事には変わりねぇだろ。


 同じ穴で足掻いてんだよ。
 そうやって俺を異端視しているおまえらも、どいつもこいつも。


内心で俺を笑っているおまえらを、俺は思いっきり声に出して笑ってやるよ。


 …………もう少し素直になれ
 金を取りに戻った家で、運悪く居合わせた年取ったサルの言葉。
 素直って何だ?
 ハッキリと言えばいいじゃねぇか……コドモはコドモらしく親のいう事を聞いてろって。
 自主性の尊重だかしんねぇけどな、言い方を変えただけで意味はかわんねぇんだよ。
 親のいいなりになって、敷かれたレールに乗れって本音を言えよ。
 素直に言えたら俺も素直に言い返してやるぜ。
 “オヤジみたいなくたびれた大人になる道なんか、真っ平御免だね”ってな。


 もっと面白いもんあんだろ?
 それが何なのか知らねぇけど、俺は見つけ出してやる。





 見つけられないまま、また、つまんねー毎日がはじまる。


「ちゃんと席に着いて」
 目の前に立ちふさがる女がえらそーな口を利いた。
 新しい美術教師だとかいってたな。
 どうせおまえも困った生徒ですってレッテル貼って、自分がいかにお上品な人間か装うんだろ?
 金もらう為にはそれが正しいやり方だもんなぁ。
 困った生徒だから仕方がありません、って自分の無能さとつまらなさの言い訳にすればいい。
 二言三言、言い返しただけで大人しくなるくらいなら、最初から見えない振りをすりゃいいのに、バカじゃねーの? こいつ。
 噛み締めた唇が震えている。
 どうした、早く何か言ってみろよ。


「飲めばいいのね、飲めば!」


「は?」
 予想外の言葉に、思わず素で返しちまった。


 清潔とはいえない水が入ったバケツをわし掴むと、長い息を吐き出してる。
 その息が止まった瞬間、バケツが傾けられた。


「……ちょっと……なんですの、アレ」
「イヤだわ」
「うわ、気持ち悪い」
 静まり返っていた美術室にヒソヒソいう声が響き始める。
 おぼっちゃま、お嬢ちゃまたちは、目の前で起こっていることに度肝を抜かれたんだろう。
 言い出した俺だって固まっていた。


 ……おもしれー。
 こいつ、面白い!


 見つけた、と思った。
 ぬるま湯の中に、急に熱湯を注がれた気分だ。
 こいつは、こいつなら……もっと俺を楽しませてくれる。
 悪ふざけのパーティーや、オンナや、サル山の観察より、興奮するものを見つけた。





「……く……陸? ねぇってば、どうしたの!? さっきから呼んでるのに」


 目を開けると見慣れた廊下じゃなく、拗ねた顔のオンナが視界にとびこんできた。
 
「ねぇ、お願い! どうしてもまたパーティー行きたいの。何でもするから! ……売ってよ、チケット」
 教室では澄ました顔で俺を遠巻きに見ているオンナが、今はくだらない暇つぶしパーティーの為に仮面を脱ぎ捨ててる。
 そんな豹変ぶりも面白かったんだけどな、今までなら。
「何でも……ねぇ」
「そう、何でも言う事聞くからっ!」
 ……へぇ。
「じゃあ、アレの水、飲み干してみろよ」
 指差した先には、例え廊下とはいえど祥慶に“ふさわしい”豪華さで飾り付けられた花瓶が鎮座していた。
「え? ……そんなの出来ない、無理にきまってんでしょ!?」
「何でもって言ったじゃねぇか」
「そういう事じゃなくて……例えばぁ……」
 オンナの指が袖口を引っ張った。
 自分の価値を確信しているとでも言いたげに、上目遣いで首をかしげている。
 つまんねーオンナ。
 腕を払うとそのままシカトして歩き始めた。


 もう興味はない。
 もっと面白いもの見つけちまったからな。


 俺の言葉、態度……ひとつひとつに突拍子もない反応を返してくる女。
 こんなに人間くさくて素直なヤツ、俺の周りにはいなかった。
 心の底からワクワクするような気分にさせられたのは初めてだ。
 こういう気持ちを何て表現すればいいのか今はわかんねぇけど、あいつを見てたら答えを教えてくれる筈。
 わかるまで見失うつもりはないぜ。
 次の美術は……曜日を確認してほくそ笑む。
 ぬるい学園にも、それなりに良い所があるじゃねぇか。


 ガッコウが楽しい場所になる予感に、笑いが止まらなかった。

あとがき

九条くんとむぎ・・・とリクエストをいただきましたー
×じゃなくて“と”・・・悩みました
こういう形じゃない!って不満あると思いますが
猫百匹の中で初の九条だったので、気持ちを認識するところから始めたかったのです
不満や鬱屈した気持ちを”素直”に出せないようで出してるあたりを書きたかったのです
むぎは、バケツの水を飲み干す所でしか出てきませんが、ご了承くださいませ〜

その先には・・・恋がまってます。きゃー!